算数教育のアンバランスと図形教育

幼児の算数・数学指導をはじめとして、生徒の算数・数学教育が数量学習に偏り、図形学習が軽視されていることは否定できません。

このアンバランスは、デジタル量がアナログ量に比べて、指導するにも学習するにも、また教授学習効果を評価するにも取り扱いやすいことが主な原因でしょう。

一方、合理的な精神、科学的な態度、特に科学の方法の特徴とされている観察・分析・推理・仮説・実験検証・記録・分類・伝達などの方法を習得させるには、数量教育よりも図形学習が適していることは言うまでもありません。

数理パズルを使った教育方法は、楽しい学習で、しかも教育効果の高い平面図形や立体図形を用いたものです。

平面図形については、幼児期から親しむ図形である丸、三角、四角を取り上げ、それぞれをいくつかに分割したものを組み合わせると多角形や幾何学図形を構成でき、その面積を求めることで整数和や分数和の計算練習ができ、図形の拡大・縮小、相似形の教育にも役立つものになります。

立体図形については、各種動物や建造物の組み立てが可能なだけでなく、その組み立て方は100万通り以上あります。完全に異なる組み立て方に限ってみても240通りあり、そのうち何通りの組み立て方を発見できるかという課題解決学習です。

易しいようで難しく、課題解決のためには前に列挙したいくつもの科学の方法を駆使する必要があり、パズルで遊んでいるうちにこれらの方法が習得できます。

通常、科学の方法は学校の理科の授業で習いますが、大体が方法習得よりも法則性発見が主な目的です。

そのため理科における科学の方法に終わり、生活の知恵としての科学の方法にまで発展しません。

このパズルで特に、記録と分類がいかに重要であるか十分な経験ができ、科学の方法の習得に繋がるのです。

数理パズルの経験のない幼児は5歳にならないと非対称な図形を裏返して使う方法に気付かないのが普通です。

しかし、3歳児でもこの教材を与えて教えなくてもそれに気付き、以後必要に応じて裏返し使用できるようになった幼児が数%います。

これに対して裏返し使用を十分心得ているはずの大人が裏返し使用できない例は数十%もあり、それを注意すると頭をかく人は少なくないです。

また、数学の問題を解くのに消去法はよく知っているのに、積み木の課題遊びに消去法の応用ができない人は少なくありません。

この方法を指導した小学校1年生が以後、消去法を生活の知恵として身につけた例も少なくありません。

遊びを通しての発見は授業での指導とは大きく異なり、紙と鉛筆の学習でなく物を使用する操作学習の意義は非常に大きいです。

物を使うので思考展開が容易となり、学習者がそれぞれ自分のペースで試行錯誤して課題解決あるいは創造学習を行うことができ、しかも解答は一つとは限らずいくつもあることが多いです。

それらの解答を求めて行う楽しい遊び学習は、答えを教えて暗記式の先を急ぐ詰め込み教育とは大違いなのです。

参考文献:『算数教育のひとつの改善方法』香川大学名誉教授 小林茂広